かつて新宿区のはずれは東中野に「スナックあき」という名前のスナックがあった。
スナックの看板こそ表に出ていたものの、とうの昔に営業は終了しており、そこは一軒家のシェアハウスとなっていた。
1Fは居抜きでボックス席とバーカウンターがあり、2Fは住居になっており大人4人が暮らしていた。宇宙船のような不思議なバスルームがあり、部屋は監獄のように狭く、木造の階段は人が通るたびに音を鳴らして住人全員に出発と帰還を知らせた。
僕がこのスナックの住人になり、撮影の機会を得たのは2011年の4月。ちょうど東日本大震災の直後だった。
大きな喪失感のようなものが世界を包んでいたが、このスナックに出入りする多くの人たちと顔を合わせていると、寂しさは和らいだ。春の風はあまりに心地よく、木造の部屋を通り抜けていった。
夜、いつものように1Fでがやがや騒いでいると、通りかかりのおじさんが「やってますか?」とドアを開けようとする。
僕たちは「すみません、店やってないんです」と毎回答えた。
– Snack Aki 2012.